読書感想:生涯投資家

僕の村上ファンドのイメージは、
・とにかく役員に敵対的なうるさい株主
・目先の株価しか考えない会社の敵
・配当や自己株買いをむやみに要求するハゲタカ・ファンド
といったものでした。

でも、この本を読み進めると「会社は誰のものか」という問いが芽生え、
最終的に「株主のものである」という結論に至りました。

生涯投資家

生涯投資家

 

僕は、会社は社長を中心とした経営者の指示のもと、
従業員が中心となって運営されるものと思っています。
だから、「株主のための経営」という言葉に強い違和感を持っていました。

僕が接してる相手はたいてい従業員だからそう思うのかもしれませんが、
会社としては1円も儲からない株主への説明資料を作るために、
何人もが工数を割かれています。
それでいて、会社に対して利益の向上を求める株主ってなんなんだろう?
多数の株主がいるからこそコストがかかっているのに、コストカットを要求するなんて、どの口が言うんだろう?

そう思っていました。

 

でも、それは上場企業だからこそのコストであって、
非上場で経営者が過半数の株式を保有している場合には関係ないんですね。

 

村上さんの主張は、上場している会社の株式は誰でも買えるのだから、
会社は社会の公器として、株主の利益向上を目指すべきとのことです。
上場しているにもかかわらず、経営者が会社を食いつぶしている会社は是正しなければならない、という理念です。

 

だから、村上さんの投資先は、経営者が会社の利益を考えず、会社を私物化している先とのことです。
合理的な理由なく、簿価に比べて高い時価となっている不動産を持っていたり、
事業に関連しない債券投資をしたりしている会社には容赦なく、株主としての権利を主張してます。
事業会社が余ったお金を関係ない先に投資するくらいなら、
配当や自己株買いで株主に還元するべきということです。

確かに、株主は投資家が本業なのですから、
企業が事業のついでに、余り金を投資するような状況よりも、
投資家に還元したほうが良いように思えます。

 

企業は経営者と従業員によって運営されてますが、権力は経営者が持っています。

だから、経営者の監督者がいなければ、経営者が会社のお金も従業員の給料も好きなように決定できます。

そこで、経営者を監督する役割を持つのが株主です。

例えば、東芝東芝メモリの株式を100%持っているから、東芝メモリの経営に口出しできます。また、ウェスティングハウスの株式も過半数持っているから、東芝ウェスティングハウスを所有していることになります。

株主が1人とか少数なら、「株主が会社を所有している」と言われて、しっくりきます。

 

でも、上場企業では、不特定多数の株主が経営者の上にいます。しかも、お金を出せば誰でも株を買えます。

誰でも買えるように売り出されているのが、上場会社なんですね。

直感的には、不特定多数の株主が会社を持っている状態がイメージしにくいから、会社は実際に運営している経営者と従業員のもの、と言いたくなります。

でも、特定でも不特定でも、株主は株主なので、上場会社の株主も理論上会社の所有者です。

 

上場会社は、誰でも所有者になっていいよ、と株主が売り出した会社なんですね。

でも、一人一人の株主の権力(=議決権)が小さくなるから、権力のバランスが経営者に傾くんです。

それでも、経営者が企業価値を高めるために活動していたら問題ないです。

でも、株価が、企業の持ってる現金や不動産の価値よりも低い状態、すなわち、企業価値が今持っている資産(借入を返済したベース)よりも小さく評価されている場合は、経営者が企業価値をマイナスにしているということです。

 

上場会社がその状況なら、本来の企業価値まで株価を回復させるよう要求する株主が出てきてもおかしくないです。

子会社なら親会社から収益を上げるよう言われるように、上場会社は株主から株価を上げるよう言われるわけですから。

 

株価の決定要因が業績と財産だけでないのが肝のところです。

業績と財産だけで評価した株価から、著しく高い株もあれば、低い株もあります。たいていの企業の株価は、将来の期待値を込みで、業績と財産以上の株価がついています。、

にもかかわらず、業績と財産で評価した株価より低い株は取引所から忘れられているのでしょうか?

「4699 ウチダエスコ」に僕は注目していますが、現金残高と株価がほぼイコールなんです。利益は継続して出していて、借入はほぼありません。こういう株が、四季報を見てるとたまーにあるんですよ。何なんだこの株は?真っ当に評価されたらすごいんじゃないか?と思うわけです。

そういった株が注目されて、本来の価値で取引されるよう、議決権を使う株主がいるほうが、株式市場として健全じゃないですか?

企業価値が低く評価されたまま影の優良企業と言われるのではなく、上場しているのなら、表の優良企業であってしかるべきなんじゃないですか?

 

村上さんの本を読んで、上場企業としてのあり方を考えると同時に、上場の意義にも考えがおよびました。

 

上場企業とは、表の会社です。株式は誰もが買えて、そのぶん不正や不祥事が少なくなるよう、取引所に監督されています。

本来なら株主がする監督業務を、株式を一般に売り出す責任として、取引所が代行しているのです。

 

株式を売りに出している(=上場している)からには、期待を込めて、株価を長期的に上げていくよう、企業価値を高めてください。とお願いする権利は、株主にあります。

実際の行動は経営者に委ねられますが、株主は経営者の人事権を持ってます。

人事権を持っているのは、人類最高の権力を持っているに等しいので、たとえ行使しなくても、経営者のストッパーとして期待できます。

経営者、株主、従業員、それぞれの権力のバランス関係で、上場企業なのに株主の権力が小さく、経営者に私物化される企業は淘汰されていくべきでしょう。

権力は偏らず、バランス良く牽制し合う状態でこそ、暴走せず公正さを保てると思います。

 

以上、村上さんの生涯投資家を読んだ感想です。

 

それではまた。